Music Forest


Bump Foot Interview

Bump Foot

Introduction

設立から3年目に突入した日本のネットレーベル Bump Foot 。これまでに同レーベルからリリースされた80を超えるアルバム。そして現在も、数多くのアーティストの作品をコンスタントに輩出し続けている、日本屈指のネットレーベル。今回、Bump Foot のレーベルオーナーであり、自身もアーティストとして活動している tatsu氏にお話を伺いました。

masayuki / Music Forest

Interview

masayuki (以下、m):
tatsuさん、はじめまして。今回は急なお願いにもかかわらず、ありがとうございます。
tatsu (以下、t):
こちらこそ、はじめまして。
m:
今回はネットレーベル運営者へのインタビューということで、色々とお話を伺わせていただければと思います。
t:
はい。
m:
Bump Foot はついに80番目のリリースを向かえましたが、感想などをいただけますでしょうか。
t:
発足して3年目に入りましたが、このリリースのほとんどが2年目に入ってからのことです。他のレーベルと比べてかなりのペースでリリースしてきました。アーティストから送られてくるデモの数は他のネットレーベルとそう変わらないと思いますが、基本的に『送られてきたものはリリースする』というスタンスをとったため、わずかな期間でこれほどのリリースとなりました。特に2007年3月は今までにないオファーがあり、それらを同月から翌月にかけて、1週間に2つずつ公開するというリリースラッシュになりました。
m:
Bump Footのリリース量は凄いものがありますね。私も月に4回ほど訪れては、新作のチェックをさせていただいてます。オンライン依存性症候群(2007/04/03) では、ロシアのアーティストから届くデモの多さについて書かれていましたが、今後もロシアのアーティストのリリースが多くなっていく予定でしょうか?
t:
その時期に偶発的に多くなったのかもしれませんし、当レーベルからリリースしたロシアのアーティストが何らかのフォーラム等で告知して、Bump Foot が知られるようになったのかもしれませんので、この点に関しては予想も出来ない次第です。
m:
ロシアのアーティストに限らず、様々な国のアーティストのリリースが混在する、国際色豊かなところが、Bump Foot の特徴の一つかと思います。私も Bump Foot 運営者が日本の方だと知ったのは随分後のことで、お恥ずかしい限りです。Bump Foot の、出身国を限定しないリリースというものは、当初からの運営指針だったのでしょうか?
t:
そうですね。国の限定は初めからするつもりはありませんでした。
m:
Bump Foot から最初のリリースされた海外のアーティストの作品は、2005年10月11日にリリースされたイタリアの Edoardo Romani Capello の 『Hteraxnis Extract』 [foot001] かと思いますが、このイタリアのアーティストの作品をリリースするに至った経緯など、お聞かせいただけないでしょうか。
t:
それまでの Bump Foot は、テクノやハウスをリリースしている状態でした。そんな折に Edoardo からメールが来て、曲を聴いてみたところ、アンビエント寄りでした。ここで、テクノ / ハウス 専門にするか、或いは アンビエント / IDM / エレクトロニカ と一緒にリリースするか、正直に言って悩んだところですが、先述のスタンスというか、『せっかく送ってきてくれたのに切り捨てるのは忍びない』という思いもあり、リリースすることを決めました。そこで、それまでの bumpxxx のカタログ番号は テクノ / ハウス 用 (Bump side)とし、新たに アンビエント / IDM / エレクトロニカ 向けの Foot side を設けることにしました。(レーベル名が Bump Foot と2つの単語から成っていたことに救われました) Edoardo が今の「二本立て」のきっかけを作ったと言えます。
m:
そうだったのですか。bumpxxx と footxxx の2本立て構想は、最初から決めていたものだと思っていました。非常に驚きです。Bump Foot の設立については、オンライン依存性症候群(2005/07/22) に少し書かれていますが、このレーベル名の由来は何でしょうか?
t:
大学の放送部にいた頃、その放送機材を利用して、参加者がダンスミュージックを数曲持ち寄り、大音量のもとでDJプレイ(単にクロスフェード等で曲をノンストップにつなげるだけでしたが) をする、小さなクラブイベントのようなことをしたことがあり、先輩がこれを 「Bump Foot / 万夫不倒」と名づけました。独自のドメインを取得する以前 (当レーベルは発足当時、Radio307 内の一カテゴリーでした)、ネットレーベルを立ち上げる旨を307スタッフに話した際、この名前を残したいとのことで、Bump Foot を引き継ぐことにしました。
m:
なるほど。これはまた面白いエピソードですね。独自ドメインの取得と Radio307 からの独立については、オンライン依存性症候群(2006/05/25) でも触れられていますね。tatsuさんがエンジニア(マスタリング担当)として Radio307 へ参加されたのは2004年とのことですが、これに参加することになった経緯など、聞かせていただけますでしょうか。
t:
放送部の友人の家に遊びに行った日、なぜか加入していました。その友人の住むアパートの部屋を307の収録および番組作成のスタジオとしていて、その日は遊びに行ったはずが収録の見学となり、いつの間にかスタッフとして迎えられていたのです。
m:
(笑)なぜか加入していたっていうのが凄い経緯ですね。非営利活動の Radio307 が、その後の Bump Foot 設立の足がかりとなったのも、非常に興味深いです。オンライン依存性症候群(2006/05/12) によると、「ネットレーベル」というものとの出会いは、Kahvi Collective とのことですが、ネットレーベルというものの最大の魅力はなんでしょうか?
t:
非営利と言うだけあってクオリティも様々ではありますが、楽曲をフリーでダウンロードして聴けるということです。Aphex Twin を知って以来、アンビエント方面の電子音楽にはまり込んでいた時期にネットレーベルを初めて知り、「こんな曲がお金をかけずに聴けるなんて」と、衝撃を受けました。最初のレーベルが Kahvi Collective だったのは、やはりその頃 Ogg Vorbis という音声圧縮形式を知り、それについて調べていたら、公式サイトにフォーマットのサンプルがあり、それが Kahvi Collective の曲でした。そのときは公式にあった曲のみ聴いただけで、曲の提供元を訪れたのはしばらくしてからのことでした。
m:
Oggのサンプルから辿ってくる、というのは非常に珍しいパターンですね。驚きです。Aphex Twin から Ambient / Electronica にはまり込んでいったとこのとですが、最初に聴かれた Aphex Twin の曲は何でしょうか?
t:
『Selected Ambient Works 85-92』 の Tr. 1 『Xtal』 でしたが、私は Tr. 5 『i』 も特に印象に残りました。
m:
私も Aphex Twin が大好きなので、Aphex Twin から Electronica に入られたというのが非常に嬉しいです。さて、tatsuさんの Bump Foot の Description を拝見すると、2001年から音楽製作をされていたようですが、音楽製作をされるようになったキッカケは何でしょうか?
t:
多くのダンスミュージックを聴いているうちに自分もこんな音楽を作ってみたいと思うようになっていきました。高校の音楽の授業で、期末テストにスタイル自由の作曲課題があり、初めての作曲はそれだったと思います。今のスタイルとはまったく異なるものでした。
m:
高校の期末テストの課題がキッカケというのは非常に面白いですね。tatsuさんは、レーベル運営、自身のアーティストとして活動の他に、ネットレーベルのレビューも非常に積極的に行われており、訪れたレーベルの数は130を超えるほどの膨大なものになっていますが、何故こういったレーベル巡礼を始められたのでしょうか?
t:
Kahvi Collective のほかにもこのようなレーベルがあることに気付き、出来るだけ多くの曲と出会いたくなりました。そこで、すこし趣向を凝らして、レーベルのリンクから次のレーベルへと移っていく形式をとりました。
m:
現在日本のサイトで、これだけのネットレーベルを巡回/レビューしている方は、tatsuさんの他には存在しないかと思います。これは音楽系blogをやっている者として、非常に尊敬しています。ただただ「凄い」の一言です。ネットレーベル巡回者、ネットレーベル運営者、そしてアーティストと、3者全てに身を置いているtatsuさんですが、各視点から、ネットレーベルの果たすべき役割、あるべき姿、目指すべき方向というのはどういったものだと考えていますでしょうか?
t:
ネットレーベルの多くは、アーティストやその楽曲を知らしめたい思いがあって発足したものが多いと考えます。非営利であるからには、レコード店のフリーペーパーやフライヤーなどで見かける、商業的な煽り文句のようなものとは無縁であるのが望ましいです。
m:
ネットレーベルの商用的側面の是非については、オンライン依存性症候群(2006/11/28) でも述べられていますね。この中で、ネットレーベルのサイト構成についてや、楽曲そのものへ焦点を当てることの重要性についても言及されており、ネットレーベル運営者からのメッセージとして非常に興味深いものだと思いました。他のネットレーベルにおいて、リリースされる楽曲やレーベル運営など、「このネットレーベルは凄い」と思われるネットレーベルがありましたら、幾つか挙げていただけますでしょうか。
t:
『レーベル運営』についてですが、マスタリングとエンコードをレーベル側で受け持つのは、トラック間の音量のばらつきも少なく、聴きやすい環境が整っていると言えます。たとえば、Thinner の役割体制は多人数ならではの利点だと思います。
m:
なるほど。ちなみに、Bump Foot では、マスタリング等についてはアーティスト側に一任している形でしょうか?
t:
はい。そのため、音量やビットレートがリリースごとに様々です。そして『リリースされる楽曲』についてですが、こちらは難しいですね。どうしても個人の主観が入ってしまうので、個々のリリースで考えるとお気に入りが多数あるレーベルはありますが、レーベル全体ですべて凄いと言えるところにはまだ出会えていない感があります。
m:
私も「リリースされる全ての楽曲が凄いネットレーベル」というのは、まだ存在しませんね。お気に入りのネットレーベルは勿論ありますが、それは 「好きなアーティストがよくリリースするレーベルだから」 とか、「そのネットレーベルからリリースされる作品の方向性が、自分の音楽的嗜好と重なる部分が多いから」 とか、そういった理由です。ここで別の質問ですが、「単体としても存在しうるMP3の楽曲を、ネットレーベルからアルバム単位でリリースすること」 について、(その利点など)どのように考えられていますでしょうか?
t:
いわゆる「老舗」のレーベルの、前期の頃に楽曲1つでリリースしているのをよく見ましたが、それが EP やら LP やらの形態をとりだして、いつの間にかスタンダードになっていたような気がします。複数曲まとまっていた方がアーティストとその楽曲をより深く楽しめるかもしれませんが、単品リリースの気軽さというようなものもよいものだと考えます。
m:
なるほど。わたしもその認識です。ネットレーベルからアルバムという形式をとってリリースすることの利点は色々と考えられますが、聴く側からすると 「チェックのしやすさ」 というものが最大の利点だと思います。MP3形式で配布している楽曲の最大の難点は「いかにして多くの人に聴いてもらうか」であり、そのために、「通常のCDのようにアルバム・ジャケットなどでリリース楽曲を纏めることにより、リスナーのチェックのしやすさを向上する」 とともに、「ジャケットから収録楽曲をイメージし、興味を引かせる」 という点においてなど、MP3での楽曲をアルバム単位でリリースする利点は数多くあるかと思います。アルバムのジャケットに関してですが、Bamp Foot では Cover Art を手がけるアーティストとして、コロンビアの xNoleet が所属していますが、Bamp Foot からリリースされるアルバムのジャケットは、基本的にはアーティスト自身の手によるものでしょうか?
t:
はい。アーティストが用意していない、もしくは用意できない場合には xNoleet を起用します。
m:
ビジュアル方面からのアプローチということで、ネットレーベルの中には Video Clip などを発表している所もありますが、Bump Foot では今後そういった予定などはありますでしょうか?
t:
現在のところは楽曲(と Cover Art)だけでやっていこうと考えています。
m:
DJを起用した Remix Album 等のリリースなどはいかがでしょうか?
t:
こちらからアーティストにオファーを出したことがないので、新しい試みであると思います。
m:
オムニバス・アルバムのリリースについても、オンライン依存性症候群(2006/06/18) にて言及していましたが、リリース予定などはいかがでしょうか?
t:
応募がなかったのでいったん打ち切りました。
m:
ネットレーベル運営の問題点として、オンライン依存性症候群(2006/12/20) にて Thinner と GEMA との問題を取り上げられていましたが、現在でもこういった問題は発生していますでしょうか?
t:
最近では新たな問題はないように思われます。
m:
クリエイティブ・コモンズに関しては、日本国内でも非常に関心の高まった時期がありましたね。こういった問題は今後も起きないことを祈るばかりです。さて、海外と比べると日本ではネットレーベルの数が非常に少ないのが現状ですが、今後の日本のネットレーベルの展望についてはいかがでしょうか?
t:
ネットレーベルがそれほど認知されていないのかもしれません。しかし、海外のレーベルに目を向けると、日本人アーティストがリリースしているのを見かけます。日本のネットレーベルはなかなかクオリティが高いところがありますが、お遊び感覚みたいなレーベルがあってもいいと思います。気軽に参加できるレーベルがあれば、そこからいろいろネットレーベルシーンが進展していくのではないかという期待があります。
m:
私のようなネットレーベルをチェックする側からしても、日本のネットレーベルのさらなる進展が望まれるところです。Bamp Foot をはじめとして、今後さらに発展していってくれることを願っております。それでは最後に、今後の Bump Foot について一言いただけますでしょうか。
t:
新規アーティストの参加を楽しみにしています。もちろん、その後何度も持ち寄って、レギュラーアーティストになってもよいでしょう。当レーベルでリリースを果たした後、他のレーベルからリリースしたり、ネットレーベル楽曲の DJ Mix を発表するアーティストもいますので、そのような、アーティストの手助けとなれることを願っています。
m:
本日は長時間のインタビュー、本当にありがとうございました。
t:
こちらこそ、ありがとうございました。

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